授業が終わると、まず誰かを誘って帰り道に着く。その時に「今日、遊ばない?」と誘う。
それで了承したら、一度帰宅してから、改めて落ち合い、遊ぶ。
もちろん、誰を誘っても断られたり、誰からも誘われなかったり、帰り道が一緒になっても、必ず遊ぶ約束が成立するわけではなかった。
そうしたら、そのまま帰宅して、ファミコンをやったりした。
遊ぶ事を強制しなければ、されもしない。
それが丁度良かった。
誰かと仲良くなって、また"自分を我慢"するのが嫌だった。
同時に誰かを規制するのも好きではなかった。
そういう意味でも"無所属"は楽だった。
ちなみに、近所に近付くと"ともサン"のグループに"缶けり"に誘われてしまい、"トウフ"にさせられるから、あえて、近所を避けて帰宅していた。
…今から考えたらおかしな話だ。
何故なら、俺の弟はともサンのグループと仲良く遊んでいたからだ。
"兄貴"の俺は何をやっていたんだろう?
それでも俺は、どうしてもその"ともサン"のグループに入りたくなかった。
缶けりで鬼になるのも、"トウフ"になるも絶対に嫌だった。
俺は"ともサングループ"に加えさせられるくらいなら、一人が良かった。
暫くは、"無所属"で良い。
そんな俺が"やすし"の次に遊び出したのは、近所の同級生"サダヒト"(アダ名)だった。
『近所』と言っても、サダヒトが住んでいたのは俺たちの地区から少し離れたところにあり、"ともサン"グループにはいなかった。
以前から知っていたが、遊んだ事は少なかった。
それが、この時期に俺たちは急速に仲良くなった。
最初に誘ったのは俺だったかな?
サダヒトは少し変わっていて、負けず嫌いなヤツだった。
ある日、サダヒトと下校していた時の事だ。
その当時、ファミコンの『スーパーマリオ』が大ブームだった。(持っていなかったが)
その時、地域の"区分け"の短い石の杭があった。
それを踏んで、「1UP!」と叫ぶ下らない遊びが流行っていた。
俺はサダヒトより先にその杭に気付き、「1UP!」と叫んだ。
それに対し、何故か、サダヒトが頭に来たらしい。
突然、数メートル手前の標識の下を掘り出した。
(何だ?)と思うと、サダヒトが笑顔で俺にフィルムケース(最近見なくなったなぁ…)を持ってきた。
中には、十円玉が7、8枚、入っていた。
「これ、俺の隠し"財宝"なんだよねー」と自慢してきた。
俺は、驚愕した。
その頃の俺の月の小遣いは300円だった。
そんな中、『80円』と言えば"大金"である。
それを下校途中に隠すなど、とんでもない度胸だった。
サダヒトはよくそんな風に小銭を地中に埋めていた。
何でそんな事をしていたのか?
全く分からない。
『小金持ちアピール』?
『財テクアピール』?
サダヒトにはこういう、よく分からない行動をした。
ある日、サダヒトが俺の家に電話を掛けてきた。
「秘密基地作ったから、来いよ」
秘密基地を公言したら秘密基地では無くなるのだが、サダヒトは得意満面で俺を自宅の裏庭に誘った。
そこには、段ボールで組み立てた"テント"のような物体があった。
それが、秘密基地らしかった。
ちなみに中にはサダヒトが作った"武器"(新聞紙の刀や槍)があった。
サダヒトは俺に「お前も秘密基地を作って、"陣取り合戦"をしよう」と言い出した。
何が楽しいのか分からず、余り乗り気にならなかったら、サダヒトはブチキレ出した。
「楽しめよ!」と言うのだが、楽しみか方が全く分からなかった。
そんなサダヒトに、俺は次第に"遠慮"を感じ出した。
なので、次第に距離を取るようになった。
ただ、そんなサダヒトはやすし同様、高校まで一緒だった。
やすしとは、あまり親しくならなかったが、サダヒトとはそこそこ遊ぶ仲を継続した。
一緒にスーファミとかしたなぁ。
サダヒトは"距離を取って"付き合えば、それなりに楽しい奴だった。
中学三年辺りから疎遠になり出したが、高校に入り、共通の友人を介し、昼飯を一緒に食べるようになった。
その頃、サダヒトは安室奈美恵にガチハマりしていた。
そして、彼女が如何に可愛いか、歌手として実力があるかを熱弁した。
特に好きなアイドルがいなかった俺は、サダヒトの話を聞くのみだった。
その時のサダヒトの"財宝"は、安室奈美恵だったようだ。
その高校までの通学路に神社があり、その脇にジュースの自動販売機が有り、その真ん中の透明なプラスチック窓があり、そこに安室奈美恵が出ていた炭酸飲料のCMポスターが貼ってあった。
ある日、その自動販売機のそのプラスチック部分がぶっ壊されていた。
中のポスターを盗んだヤツがいるようだった。
俺は、サダヒトを疑った。
昼飯中にそんな事をさりげなく聞くと、
「…そんなわけ、ないじゃん(笑)」
と言うだけだった。
もちろん、サダヒトが犯人とは確証があるわけではない。
だが、サダヒトはそんな雰囲気がある(失礼)奴だった。奇妙というか、自分の感覚に素直というか…。
そのサダヒトとは、高校卒業後、あっていない。
近所にいるから、そこら辺でスレ違っているかも?
数年前の元旦、近所の神社に初詣に出掛けた際にサダヒトらしき男性を見た事がある。
声を掛けようとしたが、声が不自由な姿を見られたくないから、止めた。
サダヒトの家は小さな工場を営んでいてたが、彼が跡を継いだのか否か、俺は知らない。
結婚したかもしらない。
近所だから、その内に会合とかで会うかも知れない。
どんな顔で会えば良いのかな?
そして、先日、安室奈美恵が引退を表明した。
サダヒトはどう思っているのだろうか?