鈴木篠千の日記

2度目の移籍。浜松近郊でフリーライターしてます。①日記(普段の生活やテレビの話題と社会考察) ②プロレス心理学(とプロレス&格闘技の話) ③非居酒屋放浪記 ④派遣録(派遣していた&いる時や過去の話)

無所属少年⑦ "川ちゃん"の正義

川ちゃんとの付き合いは、俺が"無所属"でなくなってからも続いた。(小5~)

川ちゃんは"サダヒト"同様、ある程度距離を取り、彼の"信念"を害さなければ、実に付き合い易い性格だった。

また、そんな気質なのに、"ゴッチ"のようにクラスの"実力者"グループとは付き合わず、俺のような"イケてない"グループと遊んでいた。
優しい奴だっだ。

だが、たまに例の"裏の顔"が出る。

あれは中学生の頃だ。
俺は何故か、川ちゃんと二人、天竜区(当時は"市")の二俣本町あたりに来たことがあった。

…なんで川ちゃんとそんなところに行ったかは忘れた。

川ちゃんは元々天竜の生まれで(小3の時に転校してきた)、俺に二俣本町をいろいろ紹介してくれた。
俺はそれをただただ聞いていた。
天竜に興味は無かったが、川ちゃんが気分良く説明しているから、黙って聞いていた。

そして二人で(今は無き)アピタ天竜内の本屋に入った。
すると、川ちゃんが突然俺に、
「そう言えば、"コバルト文庫"てなんで、"コバルト"って付くの?」
と訊いてきた。

そう言う文庫本が有ることは知っていた。女の子が読むような内容である事も知っていた。
読んだ事は無かった(当たり前か)。
無論、何故"コバルト"なのかなど知らない。
俺がそう告げると、川ちゃんは近くでコバルト文庫を見ていた二人組の女の子に

コバルト文庫って、何で"コバルト"って付くの?」

と尋ねた。
俺は驚いたが、ここが川ちゃんの"元地元"である事を思い出し、その二人組が川ちゃんの知り合いだと思った。

だが、違った。
その女の子らは川ちゃんの知り合いでも何でもなかった。
さらに驚いた。

「何だよ、川ちゃん。ナンパか?(笑)」と冷やかすと、川ちゃんはキョトンとした表情で俺に聞いた。

「えっ? 疑問に思ったら聞いちゃいけないの?」

三度驚いた。
確かに分からないことは人に聞くしかない。
だが、いくら元"地元"とは言え、見ず知らずの他人に尋ねる内容か?

やはり川ちゃんは、自分の考えや信念に対し、"真っ直ぐ"だった。
そして、そんな川ちゃんが俺には少しだけ怖かった。

高校は別々になったが、よく遊んだ。

高2の夏、川ちゃんを含めた四人で、龍山村に一泊二日のキャンプに行くことになった。

キャンプ場の手違いでテントが貸し出してもらえないアクシデントがあったが、ラッキーな事に"代わりに"ロッジをテント料金で借りれる事になった。

そのロッジはテントの設営地点から幾分、山中にあり、朝は少し冷え込んだ。

まあそれは、それで"楽しい思い出"なのだが。

問題は朝飯だった。
寒気で眼を覚ますと、川ちゃんが朝飯に味噌汁を作っていた。

何故か、不機嫌だった。

俺の記憶では、別に川ちゃんに『朝飯当番』を頼んだり、押し付けたわけではないと思った。彼が自主的に早起きして味噌汁を作っていたのだ。

この味噌汁が非常に不味かった。
昨夜の夕飯の残りをぶちこみ、味噌を入れただけの味噌汁(単なる肉汁?)だったが、味噌が薄く、不味かった。

たぶん、今までで食べた物の中で三本の指に入る不味さだった。
不機嫌な川ちゃんはそれを俺たちに「さあ、食え!」と迫った。

一口食べて、箸が止まる。

「川ちゃん、これ食べられないよ。…作ってくれてありがたいけど、不味過ぎるよ。」

川ちゃんは納得しない。
「いいから食え!」とキレ出しだ。
俺は仕方なく、与えられた一杯はかなり無理をして平らげた。

だか、一緒に来ていた"ユー太"(アダ名)が我慢出来ずに、

「朝からこんなもん食えるか!」

と"逆キレ"して川ちゃんと口論になった。
『食え!』『食えるか!』で揉めた二人だが、ユー太は口に運ぶのを断固拒否した。
すると、川ちゃんは何故か俺に「食え!」と言って来た。
俺もこんな味噌汁、二杯も食べたくないから、「食えるか!」と言って口論になった。

…結局、どうなったか?
覚えていない。

と言うのも、このキャンプの帰りにユー太と"神戸"(アダ名)の自転車がクラッシュし、危うく崖に落ちかける事件が発生して、そちらの方が記憶として印象的になったからだ。

何故この朝、川ちゃんはこんなに機嫌が悪かったのか?
理由は分からず仕舞いだ。

俺が思うに、
この朝、真夏と言えども山中のロッジはかなり冷え込んだ。
川ちゃんは優しさから"朝食役"を自主的に買って出たが、寒さにその"義侠心"が萎えたのではないか?

そばには、のんびり寝ている仲間がいる。
『俺が寒い中、朝食作ってんのに…』と思ったが、別にその役目を押し付けられたわけではない。
どうにも怒りの矛先が無く、結局、『俺たちに味噌汁を食わす』という形になったのでは無いか?

川ちゃんは自分の抱いた"考え"を曲げられない男だった。
彼には、彼だけの"正義"があった。

この川ちゃんとは、俺が高校を卒業して浜北を離れてから会っていない。
連絡もしていない。

風の噂では、『神奈川で警察官になった』という。(未確認)

それを聞いた時、少し納得した。

川ちゃんには川ちゃんの"正義"があり、それに妥協しないのが、川ちゃんらしい。

ならば、罪を憎み、犯罪者を追い回すのが、川ちゃんらしかった。

今もたまに川ちゃんの家の近くを通る時がある。
あのにこやかで優しい笑顔と、執拗な怒った時の顔を、両方思い出す。

川ちゃんはどこかの空の下、自分の"正義"を貫いているのだろうか?

まだ、ドラえもん、読んでいるのかな?