鈴木篠千の日記

2度目の移籍。浜松近郊でフリーライターしてます。①日記(普段の生活やテレビの話題と社会考察) ②プロレス心理学(とプロレス&格闘技の話) ③非居酒屋放浪記 ④派遣録(派遣していた&いる時や過去の話)

プロレス心理学⑥ 噛ませ犬

長州力の『噛ませ犬』発言を知っているか?

"噛ませ犬"とは、闘犬などで勝たせたい犬に"あえて"、格下の闘犬と戦わせて勝たせ、勝たせたい犬に自信をつけさせたり、"箔"を付けさせる事。

…つまり、『負ける事を前提に組ませた試合』、さらには『勝てる相手としかやらない奴』と相手を批判したわけだ。

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「俺はお前の噛ませ犬じゃないだよ!」と言う長州力の"発言"は、訳せば「俺はお前に箔を付けさせる為の存在ではないんだ!」と言う事だ。

当時、長州は新日の中で猪木、藤波に続くNo.3の位置にいた。
五輪のレスリング代表(韓国)にまでになった長州にとって、レスリングの実力では明らかに劣る藤波より下に見られる事がどうしても許せなかった。

「俺はお前の噛ませ犬…」の"お前"は藤波を指している。

何度も書いているが、プロレスの結末は決まっている。
試合の勝敗は戦う前から分かっている。
長州のこの怒りは、要するに『何で俺が藤波なんかより"弱い"位置付けなんだ!』と言う現状への不満であり、本来は新日本プロレスの社長(当時)猪木にぶつけるべき言葉である。

この長州のフラストレーションを逆手に取り、リングに持ち込み、藤波と抗争させた猪木は"プロモーター"として相当に頭が良い。

何故なら、プロレスの"序列"や待遇に関する事など言わば、"内ゲバ"であり、世間に見せるものではない。それをリングに上げて"プロレス"にしてしまう。
やはり猪木はプロレスの天才だ。

そして、この話のもうひとつのポイントは長州力自身が「噛ませ犬じゃないだよ!」とは言っていない事だ。

長州は藤波に怒っていた。不満を感じていた。
それは確かであり、藤波に対して「なんで俺がお前の後ろを歩かないと行けないんだよ!」「俺はお前に負けていない!」とは、言った。

それを聞いたアナウンサーが勝手にデフォルメして『噛ませ犬じゃないだよ!』にしてしまったのである。

おそらくだが、このアナウンサーはプロレスの"真実"を知っていたのではないか?

よく考えてみたら、"噛ませ犬"と言う言葉にはプロレスへの"労りと偽り"が滲んでいる。
噛ませ犬、というのであれば、それが決められた結末を"演じて"いると迄は読み取れない。
長州は単に新日の中の己の待遇を、藤波と比べて「差がありすぎる!」と怒っているとも受け取れる。

長州の怒りは真実だが、プロレスの"真実"を吐露してはならない。
だから、アナウンサーは"噛ませ犬"という発言をしたのである。

では、何故、長州は自ら「噛ませ犬」「本当は俺の方が強いんだ」と言わなかったのか?

それは言えない。
長州自身はプロレスラーだ。プロレスで飯を喰っている。
そんなプロレスラー長州がプロレスの"真実"を吐露して怒ったら自己の否定になり、自分の首を締めるだけである。
自分からは言えない。

しかし、藤波の"下"に見られるのは、嫌だ。

当時の長州はそんなジレンマに陥っていたのではないか?

もしも、当時に今のようなMMA(総合格闘技) の試合があれば、長州は出ていたたろうか?

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この時点(噛ませ犬発言)の頃の長州ならば、それはあり得る。

しかし、この藤波との抗争で人気に火が付き、『革命戦士』や"維新軍"などでプロレスラーとしての価値を上げた長州にしてみれば、あらかじめ勝敗を決めていないリアルファイトなどはやる"価値"が無くなっていく。

そんな長州だから、格闘技っぽいプロレスをして、何となく世間に『UWFはガチだから新日より強い』という見られ方が許せなかったのではないか?

これも皮肉な話だ。

(本当は俺が強いんだ!)と言いたかった男が、「アンタより俺達が強い!」と主張されてしまう。
そして、そんな奴等とはリアルファイトしない。
だから、"10.9"は"プロレス"だったのだ。
(Uインターの方も、リアルファイトする気はなかったが…)

長州力とはそういうプロレスラーである。
自分が不利になる事は言わない、やらない。
だけど頭に来るから、誰かに代わりに言ってくれるのを待つ。もしくは自分の"テリトリー"でしか闘わない。

実に利己的であり、プロレスラーらしいプロレスラーだ。

こんな人は、やはりよくいる。
世間によくある"形"の人間だ。

自分の"テリトリー"からは絶対に出ない。
自分の知っている、自分の"力"が及ぶ範囲でしか威張れない奴。

"噛ませ犬"としか闘わない人間。
常勝を誇るが、そんなのは当たり前だ。勝てる相手としかやらないからだ。

そんな長州みたいな奴は、世間に腐るほどいる。
恥ずかしげも無く生きている。
(俺も)

そんな彼らが怒るのは、世間や回りから低く見られる事で、恐れるのは自分のテリトリーの"外"からの攻撃だ。

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長州が"噛ませ犬"以降、プロレスというテリトリーから出なかったのは、そこにある"真実"が怖かったからだ。

そんな長州な前田日明に"リアル"に顔面を蹴られたのも、また皮肉である。

前に『社会では、真実という事は大して意味がない』と書いた。

だが、こういう人間には意味を持ってくる。
テリトリーから出たがらない奴など、そのテリトリーから出させてしまえば、容易い。
(…たぶん出たがらないが)

"真実"を明らかにする。
本当にアンタは強いのか?

それを否定するのが、プロレスであり、社会なのだ。

"噛ませ犬"としか闘わない。それが社会だ。
本当に"強い(かもしれない)"人間とは争わない。なんのかんのと御託を並べて逃げる。

この"噛ませ犬の理屈"を覚えて置けば、そして常に"真実"と言う"凶器"をチラつかせておけば、"長州力"は目の前には現れないだろう。