鈴木篠千の日記

2度目の移籍。浜松近郊でフリーライターしてます。①日記(普段の生活やテレビの話題と社会考察) ②プロレス心理学(とプロレス&格闘技の話) ③非居酒屋放浪記 ④派遣録(派遣していた&いる時や過去の話)

プロレス心理学36 絶対女王

以前、在籍していた出版会社に、何かにつけて「それ、絶対?」と聞いてくる女性がいた。

営業なのだが、会社側からの"指令"が伝わると、必ず「それ、絶対なの?」と同僚や俺達立場低い人間に必ず、確実性を求めてきた。
そんな事を俺に聞かれても、確証があるわけではない。

(こっちに聞くなよ…)

と思っていた。
度々「絶対?」と聞いてくるので、一度頭に来て、

「そんなら、(会社の)幹部に聞いて下さいよ!!」

と怒ったことがある。
すると、その営業の女性的は戸惑うばかりであった。
つまり、幹部連中にまで確証を問う度胸はないが、俺のような下っ端には強気に出られる、というわけだ。

…単なるパワハラなのだ。

社会において、『絶対』という事はなかなか無い。

つまり、彼女が言いたいのは『それで何かあったなら、アンタが責任とってよね!』という事だろう。

もちろん、俺にそんな権限も責任も無い。
もちろん、彼女はそれが分かっている。
分かっているからこそ、強引に絶対と"保障"させたいのだ。
そうしないと、何も行動を起こさないし、起こせない。

自分の行動を"絶対に担保してくれる"存在を求める彼女を、俺は陰で『絶対女王』と呼んでいた。

このように、何かを保障されないと動けない人間がいる。

俺の好きなプロレスラー、小橋建太はかつて『絶対王者』と言われた。

イメージ 1


ノアのGHCベビーのベルト巻いていた頃だ。
この頃の小橋は強かった。
圧倒的に強かった。
そして、面白かった。リミッターを振り切った極限ファイトが熱かった。
全日の頃から"青春の握り拳"、真似したなぁ。

小橋建太は俺の好きなレスラーの1人だ。
(他にはハンセン、高田か?)

イメージ 2


イメージ 3


小橋はGHCを13連続防衛した。
(その後、杉浦が14連続した…)
とても敵う相手はいないように思えた。

だが、おかしい話だ。

何度も書いているが、プロレスの結末は決まっている。
プロレスは決まった勝敗に向かい、レスラーたちが技を繰り出して試合を盛り上げるのだ。

ならば、小橋は絶対王者ではない。
レスラーたちが"負ける事を受け入れて"いるから勝っているにすぎない。

本来、『絶対王者』とは負ける事が考えられない程強い王者の事である。
だが、試合の勝敗が決まっているプロレスには絶対王者はいない。

だが、小橋健太は間違いなく、"絶対王者"であり、小橋が勝つことが絶対であり、王者の小橋が勝つことを"拒否"するファンは少なかった。
それで満足だった。

社会には、"絶対"が少ない。
"絶対、大丈夫"と言い切れる物事は少ない。

また、「絶対」と言った瞬間にその事に責任を持たなくてはいけなくなる。

例の"絶対女王"の目的はそこだ。

それに気付いたのは、脳腫瘍の2度目の手術の際に主治医から、「手術は無理しないけど、植物人間になる可能性はあるよ」と言われた時だ。

俺と家族は主治医に「その可能性は何%ですか?」と何度も聞いた。

だが、主治医は一切その%を言わなかった。

何故か?

「もしも、80%は助かり、20%で植物人間になったとしよう。もし、そうなっても納得できますか?」

この言葉はかなり俺の深いところに刺さった。

80%は80%だ。100%では無い。
20%で植物人間になる確率は、絶対に20%なのだ。

もしも、その20%に当たり、植物人間になったとしても、20%なのだから仕方ない。

しかし、人間の感情では納得はできない。

人は思う。

"80%"と言われると、勝手に100%に変換してしまう。
(きっと大丈夫だ)と、思い込む。

もしも、植物人間になった時に主治医から「…20%と言いましたよね」と家族が言われても、それで引き下がれるか?

出来ないだろう。

だが、80%は80%なのだ。絶対ではない。

あの"絶対女王"が絶対の保障を欲しがったように、人間は絶対を欲しがる。

だが、なかなか絶対は見つからないのだ。

それがプロレスにはあるように思える。

プロレスは観客を喜ばせ、人気が上がれば、絶対王者もあり得る。
負けないレスラーでいられる。

だか、…厳密にはプロレスにも絶対は無い。

人気、観客の支持を維持し続けないとなり得ない。
これは難しい。
実力ではない分、多少は成り立ち安いかもしれない。

しかし、永久的に"強い"プロレスラーはいない。
どこかで負ける。"絶対"では無くなる。

プロレスにも絶対は無いが、社会よりは成り立ち安いのは確かかも?

そこまでして欲しい"絶対"など、欲しがる価値があるのか?

"絶対"がないと動けない人間は、いつまでも自らを"保障"してくれる存在を待つ。待ち続ける。
だから、動けない。動かない。
遅れてしまう。

それが良いか、悪いかはわからないが、
肝心なのは、"絶対は無い"と理解しているか、どうかだ。

絶対女王は誰も保障してくれないと、いつも不機嫌になり、「何でよぉ!」と怒っていた。
こちらからすると、全く理解できないし、賛同出来なかった。

だから、なるべく安全な方法、固い契約、確実なやり方を"選り好み"していた。

それでも絶対は無い。

この世に絶対は無い。
絶対に、"絶対は無い"。