鈴木篠千の日記

2度目の移籍。浜松近郊でフリーライターしてます。①日記(普段の生活やテレビの話題と社会考察) ②プロレス心理学(とプロレス&格闘技の話) ③非居酒屋放浪記 ④派遣録(派遣していた&いる時や過去の話)

プロレス心理学48 棚橋は誰を愛すのか?

俺がMMAから再びプロレスに比重を変えていた頃。

2008年の1.4。新日のドーム大会を見に行ったことがある。(10年前か…)
プロレスはまだまだ"冬の時代"だった。

メインは棚橋―中邑のIWGP戦。

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当時、棚橋は"例の"女性問題を引きずっており、不人気だった。
メインを観戦中、俺の目の前に座っていたデブの客が盛んに棚橋を罵っていた。

「棚橋、塩ー!」
(棚橋の試合が"しょっぱい"からくる揶揄)

これに俺はカチンと来た。
断っておくが、俺は特に棚橋ファンではない。
実を言えば、棚橋のクラシカルなプロレスにはあまり賛同していない。

しかし、盛んに罵声を浴びせるそこのデブの言い方が癪に触った。

その「塩ー!」に合わせて俺は"あえて"「タナー! 行け!」と声を被せて打ち消してやった。
何度もやってやった。

そのデブが何度かこちらを睨んで来たが、無視してやった。

俺は棚橋に同情していた。交際女性に背中を刺されるなどカッコ悪い。
愚かである。
しかし、一方的に棚橋を非難するのはおかしくはないか?
プロレスはプロレスだ。
レスラーの私生活など関係ないではないか?
不平等さを感じた。

今からだが、この時の俺の"行動"は少し間違っている。
プロレスラーは"プロ"レスラーだ。

リング外の行動もプロレスであり、それを踏まえてレスラーは試合を見せないといけない。
プライベートで失敗しても、それをリングに上げて"プロレス"しなければならない。
罵声を浴びようが、ブーイングを浴びようが、それがプロレスラーである。
つまり、棚橋を援護する事自体が不平等でしかない。

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それが嫌ならプロレスラーは辞めるべきだし、俺が嫌ならプロレスなど見なければ良いのだ。


『平等でなくてはならない』とは、俺達が子供の頃から教え込まれている感覚だ。

人間は生まれながら、平等で自由だ。
誰にも阻害されないし、何をしても、何を言っても、何を信じても自由だ。

しかし、その反面。知っている。
世の中は不平等だ。
平等な事など実に少ない。
だが、"建前"上、人は自由であり、平等である。金持ちも貧乏人も人として有する権利は同じだ。
皆、等しく平等でなければならない。

この『平等感』という奴が大きなポイントだ。

人は『自分から見た平等』は主張する。

しかし、その上で他者より"優遇"されたり、『"上"に立ちたい』と思う人種である。

つまり、『自分の自由は認めて欲しいが、他人の自由は認めたくない』のだ。

『自分は何をしても、何を言っても、信じても自由だ。だけど、他人はそれをしてはダメだ』という考えは、平等感からは遠く離れた感覚だ。
ただのワガママでしかない。

幼い頃から『平等感』を植え付けられている我々はそんな主張を出来ない。

そんな事を主張したら、非難されてしまうのが、分かっているからだ。
だが、それでも他人の自由は認めたくない。

他人から優遇されるには、人望や功績、成果がいる。
それらがあれば人は自然と他人に"忖度"する。

だから、人望も功績も成果もない人間は、どうにか自分だけが考慮される組織を作りだかる。

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自分の考えや理屈が最優先される組織。
自分の意思で他人の自由を規制できる組織。

平等感は、不平等な社会の中ではこういう風に歪んでしまう。
あの"会長"のおかしな言動も、『自由で平等な他人を、自分の思い通りにしたい』という平等感から来ているに違いない。

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では、棚橋に罵声を浴びせていた、あのデブは正しいのか?
アイツの自由だから、良いのか?

確かに自由だ。好きに罵声を吐いたら良い。

俺は応援するだけだ。それも"俺の自由"だ。(棚橋ファンでもないのに…)

そうなると棚橋自体の問題な気がする。
何があってもプロレスラーは、それを"プロレス"にしなくてはならない。

プライベートで女性に背中を刺されようが、平等に扱われようが、不平等に蔑まれようが、それがプロレスラーではないだろうか?

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棚橋は"平等"である。
批判も称賛も受け入れるからだ。

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称賛しか受け入れないというのなら、それ自体が批判される。
批判しか受け入れない(そんな奴いないが…)というのであれば、それ自体が称賛だ。

よく棚橋は「愛してまーす!」と締めのマイクパフォーマンスをする。
あれは、『批判も称賛も大歓迎でーす』という事ではないだろうか?

批判も称賛もリングに上げて、プロレスにしてしまう棚橋は、ようやく"プロレスラー"になったのでは?

先頃、その棚橋が今年のG1で優勝した。
ここ最近、どうも減退気味だったが、これで"メインストーム"に乗ってくるかも?

平等な棚橋なら、もう一度、トップに行ける気もする。

棚橋は愛している。

ファンを、プロレスを、批判も、罵声も…。
自己陶酔のキャラを演じながら、それをうまくプロレスに"昇華"させ始めている。
こうなったレスラーは強い。
誰よりも強い。