鈴木篠千の日記

2度目の移籍。浜松近郊でフリーライターしてます。①日記(普段の生活やテレビの話題と社会考察) ②プロレス心理学(とプロレス&格闘技の話) ③非居酒屋放浪記 ④派遣録(派遣していた&いる時や過去の話)

プロレス心理学48 田村潔司という頑固者

この頃(2000年代中盤ほど)、俺はMMA(総合格闘技)からプロレスに比重を移していた時期である。
PRIDEが崩壊したが、プロレスはまだまだ"冬の時代"であった。

全日本➡Uインター➡MMA➡プロレス、という少し特殊な"格闘技遍歴"を経ている俺としては、プロレスとMMA(総合格闘技)の間にある"UWF系プロレス団体"が気になった。

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UWFは、真剣勝負っぽく見えるプロレスであり、プロレスの範疇から出ていない。
俺は初めは『これはリアルな格闘技だ!』と思っていたが、例の"10.9"を経て、Uインターがプロレスであると分かった。

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Uインターはプロレス団体だったのだ。
という事は、UWFから派生した団体は全て,プロレス団体のようだ。

Uインター
キングダム
藤原組
バトラーツ
RINGS

全て崩壊した。
パンクラスは真剣勝負。プロレス団体と分類できるかは微妙。

UWFは真剣勝負を前提に観客を集めていた。
それがPRIDEなどの本物のリアルファイト✊が同じ国内で行われているのだ。

それはそちらの方に移行するよね。
(俺も…)

プロレスは、"ショー👯"である。
観客を煽り、パフォーマンスを繰り広げ、興奮を引き出せばよい。

だが、MMA(総合格闘技)は真剣勝負✊のリアルファイトだ。
観客の興奮は二の次だ。
まずは試合の勝ち負けが何より優先される。

UWFはこのプロレスと総合格闘技の狭間にあるような"プロレス"だった。
そして、プロレスから総合格闘技への移行に際し、必要な存在(夢枕獏)だった。

上に上げたUWF派生団体の内、RINGSもプロレスだったが、かなりわかりにくかった。
初めはRINGS(とパンクラス)は、真剣勝負の総合格闘技だと思っていた。

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前田日明の作ったRINGSは俺には総合格闘技に思えた。

だが、「?」と思って事もあった。

"10.9"の際、Uインターの田村潔司は新日本との対抗戦に出なかった。
その後、田村は退団して、RINGSに移籍した。

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違和感を感じた。
Uインターは"プロレス"である。
RINGSは"総合格闘技"である。(と思っていた)

プロレスと格闘技は違う。似ているようだが、全く違う競技である。
なのにプロレス団体から格闘技団体に移籍して大丈夫か?

…ひょっとしたら、RINGSは"プロレス"ではないか?

しかし、その試合、試合前の雰囲気は総合格闘技のそれだった。

俺がRINGSを"プロレス"と認識したのは、2004年辺りか?
インターネットの掲示板を見て、あれが『格闘技っぽく見せたプロレス』だと分かった。

しかし、不思議と怒りはなかった。
RINGSには総合格闘技の雰囲気があった。
ナイマンのボディブロー。
フライの膝蹴り。
ハンの関節技。
日明の掌底。

皆、本物に見えた。
思い込みは"魔力"だ。


経済心理学に、『プロスペクト理論』というものがある。
『選択の結果得られる利益もしくは被る損害および、それら確率が既知の状況下において、人がどのような選択をするか』を導く理論だ。

簡単に言えば、トレーディング(株投資など)の結果として起こり得る損益をあらかじめ考えておく事である。

『不確実性下の対処法』とも言える。

人は不確定要素を嫌う。
リスクを孕んでいるからだ。特に経済活動では。
『確実に儲かる』『利益が見込める』事柄、仕事を優先する。
逆に『利益が確定していない』『結果が見えない』事柄、心理学はやりたがらない。
己の損害になるかもしれないからだ。

それは人間関係でも変わらない。

初対面の人と出会い、その人物が自分にとって"敵"か、"味方"か、はとても重要な事だ。
敵ならば、攻撃し、排除しなければならない。
逆にミカタならば、友好関係を結び、仲良くなりたい。

それが分からないから、人は初対面の人間を嫌う。
敵か、味方か、"不確定"だからだ。

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長州が若い頃、ファンの女性(後の妻)に一人で会えなかったように、不確定な他人は間違いなく"不確定要素"だ。

前田日明のRINGSもまた"不確定要素"だった。
RINGSは結末アリの"プロレス"だ。
限りなく真剣勝負に見えるプロレスである。
それは動画をよく見たら、すぐに分かるだろう。(俺は信じた…)
だが、あの頃は今のようにネットも普及してなかったし、YouTubeも無かった。
情報はプロレス雑誌だけ。

…よく考えたら"格闘技団体"の記事がプロレス雑誌に掲載されている時点でおかしいのだが、『不確定要素』を嫌う我々は、RINGSを"格闘技団体"と信じた。

RINGSはプロレスを"排除"するプロレス団体だ、とも言える。
だから、一定の人気があり、他の団体と一線を描いていた。

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RINGSは"不確定要素"を巧みに取り入れて、独立自尊していたのではないか?
(実際はプロレス団体なのだが…)


Uインター崩壊前後の田村潔司の行動もまた『不確定要素』である。

田村の対抗戦不出場と移籍の理由は実のところ、よく分からない。

雑誌のインタビューや、記事から推測すると、
当時田村は団体内で"将来のエース候補"と目され、相当に優遇されていた。
そんな彼にとって、新日本との対抗戦など、せっかく"美味しい"位置にいるのに、わざわざそれを手放す行為でしかない。
Uインターという枠組みの中でしか、己の優遇を確保されないことを分かっていたに違いない。

田村は従来の"プロレス"が出来ない。
UWF系の"格闘技っぽく見えるプロレス"しか出来ない男なのだ。

だから、RINGSに移籍したのだ。

そこは田村の"スタイル"に適合する場所だった。

田村潔司は"不確定要素"な自分を確定させる事で生きる術を得ていた。

田村はよく『赤パンツの頑固者』と呼ばれる。

確かにそうだ。

高田の元を去り、RINGSに入団したが、その後、PRIDEなどのMMAのリングにも上がっている。
一貫して"プロレス"を排除している。
拘っているのは、"UWFスタイル"(格闘技っぽく見えるプロレス)であり、その姿勢はまさに"頑固者"だ。

人は"不確定要素"を否定する事で、利益や思考を固定する。
"固定化"された人間は分かりやすい。
『アイツはアレが嫌いで、それが好きなんだな』と他人が本人の思考を予想できるからだ。

不確定要素が排除されたら、人は扱い易い。

単純に言えば、やはり『敵or味方』だ。

この図式で人間関係を構築していけば、自分が支配しやすい関係を作り易いからだ。

それがわからないと、どう扱ってよいかわからないから、人は嫌がるのだ。

社会において、自身がどういう人間かを表さないといけない場面が来る。
『Show The flag』(旗色を示せ)である。

その時、自分の意に反する答えをしてしまう事があるやもしれない。

田村潔司は実に分かりやすい。
『常に自分が"優遇"される立場にいたい』という意思を優先して行動している。

田村が新日本との対抗戦に出なかった理由をそういう観点で再考すると分かる。
田村にとって"10.9"の対抗戦には出る意義がない。
Uインターは"真剣勝負"っぽいプロレスをしている団体であり、100%プロレスの新日本との対抗戦では勝敗に関わらず、"プロレス"をしなくてはならない。
Uインターという団体内で、次期エースと目されていた田村が、"プロレスとわかるプロレス"をするメリットはない。

勝っても"プロレス"で勝利しただけであり、格闘技者としての技量の評価にはならない。また、新日本という自分の未知な組織に取り込まれる可能性すらある。
負けたとしても("負ける"という"ジョブ"をした)、田村の評価には旨みがない。

RINGSへの移籍もそうだ。
格闘技っぽく見えるプロレスをするRINGSは田村が闘う意義とメリットがある。

PRIDEなとの総合格闘技(MMA)に出場したのもそうだ。
総合格闘技は見た目として、RINGSやUインターなどの格闘技っぽく見えるプロレスと"地続き"に見える。
だから、ここ(MMA)なら出る意義がある。勝っても負けても格闘技者としての評価に繋がる。

『頑固者』という田村の異名は"的を得ている"。
彼は己がどこで耀くか、どこに行くべきか、そして自分が"不確定要素"な事を知り抜いていた。

何度も書くが、不確定な要素は阻害される。
敵か、味方か。
利益か、損害か。
柔和か、嫌悪か。

人はそのどちらかで他人を判断したがる。『どちらでもない』は"分かり辛い"のだ。

田村の行動から分かるのは、『妥協してはいけない』と『独立と孤立』である。

自分に有利な状況はそう長くは続かない。いつまでも周りの状況は自分に良顔をしてはくれない。

だが、人は常に自分が優遇される状況にいたい。

だから、妥協しない。
「少し待遇は悪くなるけど、まあ良いか?」などと考えない。"頑固に"自分の事のみを考える。

そして、孤立する。
孤立して誰とも関わらない。
それは寂しく悲しい姿かもしれないが、独立的である。
独立しているから、自分の好きな状況、条件が選べる。妥協し、他人に"忖度"しなければならない生き方はしない。

田村が既存のプロレスをしないのは、自分の価値を決して落とさない為と、他人のフィールドに取り込まれない為だろう。

そこに孤立感がある。

だが、独立している。誰にも媚びない、従わない意地が見える。

敵に回すと厄介で、1度ヘソを曲げるとなかなか直してくれない。

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だから、頑固者なのだ。