鈴木篠千の日記

2度目の移籍。浜松近郊でフリーライターしてます。①日記(普段の生活やテレビの話題と社会考察) ②プロレス心理学(とプロレス&格闘技の話) ③非居酒屋放浪記 ④派遣録(派遣していた&いる時や過去の話)

プロレス心理学116 教祖志望

他人の“見てはいけない瞬間”というヤツを見たことがあるだろうか?

俺はある。


高校生の頃、木山さん(仮名)という仲良くしていた先輩がいた。

人当たりが良く、俺にも気軽に声を掛けてくれる先輩だった。

ゲーセンの話や格闘技の話などをして盛り上がった記憶がある。

俺のようなプロレス“おたく”ではなかったが、よくプロレス話に付き合ってくれた。

 

初めは、面倒見の良い先輩に思えた。


たが、木山さんには少しわからないところがあった。

 

気軽に話をしてくれるのだが、話をするうちにだんだん口が汚くなるのだ。

初めは「お前、プロレス好きなの?」とか「あれ、俺もたまに観るぞ」と友好的に話してくれるのだが、次第に攻撃的になり、「お前、あんなの好きなのかよ? バカだなー」とか「だから、お前はダメなんだよー」、「プロレスなんて八百長だろ? あんなもの見て楽しいのかよ?(笑)」と俺を小馬鹿にしてきた。


俺は思った。

「…木山さん(仮名)、俺の事、本当は嫌いなのかな?」

そうとしか思えなかった。


だが、不思議な事に木山さんは、それでも俺によく声をかけてくれた。

俺だけではない。周囲の同級生などにもよく話しかけ、凄く楽しそうに高校生活を送っていた(ように、見えた)

実際、木山さんに誘われて、学園祭でバンドを組んだ仲間の応援をしたこともある。

木山さんは、楽しい先輩だった。たまに俺を見下したような態度を見せるが、話せる先輩だった。

 

さらには、仲間が多く、知り合いも多い。

俺とは違い、充実した高校生活をしていた(はずだった…)


そんな木山さんは、俺がプロレスの話をするとよくバカにしてきた。

何故か、プロレスの話をすると俺を攻撃的し始めるのだった。


初めは、「…俺もたまに観るぞ、プロレス番組」などと親しげにいうのだが、次第に「あんなのどこが良いんだよ?」とか「プロレスって八百長だろ?」と言い出し、仕舞いには「プロレスなんかより、空手の方が強い」とか「お前、空手の“突き”のスピードを知っているか? あれを食らったら、プロレスラーなんてな…」などと言い出す。

ちなみに、木山さんは空手経験者でもなんでも無い。


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プロレスの“仕組み”に気付いていた俺だが、そこは言わず、「木山さん、UWF、知らないんすか?」とか「プロレスラーはナチュラルに強いんですよ!」と木野さんと張り合い、“子供の喧嘩”のような不毛な口論をしていた。


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この頃(1994年くらい)、俺はプロレスに夢中だった。

特にUWFインターにガチはまりしていた。

(上の写真は1997年の正月、武藤-高田の2戦目)


そして、しばらくは話さなくなるが、そのうち話しかけてくるのはいつも木山さんだった。


「…何なんだ、この人?」


俺は木山さんという人がよく分からなくなっていった。

俺をバカにしているのか?

寂しいだけなのか?

実はプロレス嫌い?

 

よく分からなくなっていた。


そして、俺はそんな木山さんの“見てはいけない場面”を見てしまう。


あれは一年の最後の方。

俺はたまたま上級生のいる階にきていた。たまたまである。

何気なく、(木山さんのクラス、ここだよな…)と思い、木山さんのクラスを覗いた。


木山さんはいた。


いたのだが、そこには普段の木山さんはいなかった…。


自分の席らしき場所に腰を下ろし、所在無さげに俯き、休憩時間を過ごす木山さんがいた。

寂しさを背中で表していた。


俺が普段見る木山さんは、オシャレで、仲間に囲まれ、人当たりがよく、少し偉そうな姿をしていた。

話し出すと、傲慢になり、俺を攻撃してくる。「お前はバカだなー」もせせら笑っていた。

 

どことなく、自分のクラスでも“中心的なポジション”にいるような感じがした。

 

それが、クラスの木山さんは明らかに浮いていた。

仲間外れ、とまでは言わないが、誰とも話さず、暗い感じがした。

たまたまそうだったのかもしれない。


(…木山さん?)


俺は、少し目を疑った。

あれが木山さんか?

いや。確かに木山さんだ。坊主頭を少しオシャレに刈り込み、幅の広い学生ズボンを履いているのは、木山さんに違いなかった。


とその時、俺は木山さんと目が合った。


その時の木山さんの目が忘れられない。

“卑下した”というか、“はにかんだ”というか、戸惑いというか、なんとも言えない目でドアから観ていた俺を見たのだ。


その日から、俺と木山さんの関係は微妙に変わった。


以前のように、俺がプロレスの話をすると小馬鹿にしてくるのだが、少し“軽く”なった感じがした。

俺が、“あの”姿を見たからだろう。

俺に遠慮しているように見えた。


(…ははっ、木山さん、そんなに気にしなくて良いのに)


俺は思っていた。

木山さんは俺などの前では“イケてる”高校生と思われたかったのだろう。

だが、実際はクラスでも“浮いた”存在だったのだ。


それは俺も同じだった。

もしも、木山さんが俺のいたクラスを覗けば、そこには木野さん同様に所在無さげに佇む俺がいただろう。

どんなに木山の前で話をしても、威張っても(そこまでしてはいないが…)

俺など、クラスでは“最下層”のプロレス好きのオタク高校生なだけであった。


俺は、その頃はそう思えて、俺の前で虚勢を張る木山さんが物悲しく思えた。

必死に自分を取り繕い、見栄を張り、自分を演じていただけなのであり、それは俺も同じだったかだ。


その後、俺と木山さんは次第に疎遠になる。

仲違いしたわけではないが、話さなくなり、廊下などですれ違うと、軽く挨拶するような感じになった。

もう“プロレスvs空手”なとで口論する事は無くなった。

間違いなく、“あの目撃”が二人の関係性を変えたのだ。


その時の俺は、木山さんの気持ちを理解した“つもり”でいた。

寂しそうな先輩の“真の姿”を見て、(…気にすること、ないのになた )と本当に思っていた。

別にいつものの通りに話しかけてくれば良いのに、と思った。

 

だが、木山さんは話しかけて来なくなった…。


あれから20年以上が経ち、俺は木山さんが絡んでこなくなった理由が分かってきた。


木山さんは“あの姿”を、俺には絶対に見られたくなかったのだろう。


自分は、他人より優秀で人望があり、慕われている。

そんな自分でいたく、そんな自分を魅せておきたかったのだ。

まさに見栄なのだが、人はその見栄に全力を出したりするのだ。

他人から尊敬されたい、イケてる先輩でいたい、格好付けたい。

あの頃(高校生)は、それが人生の全てで、大事な事に思えたのではないか?


俺は、木山さんがプロレスの話を嫌った理由がようやく分かりだした。


木山さんは、俺が、自分の“認識”できない何か(プロレス)に夢中なのを認めたくなかったのではないか?


つまり、『信者が欲しい』だ。

自分だけを信じ、自分を中心的に考え、自分の認識を“共有”してくれる存在。

 

自分が「こうだよな?」などと言えば、「そーすっね」などと賛同してくれる“都合の良い信者”か欲しくて、それが俺に思えたのではないか?


だから、自分の知らない“プロレス”というものに夢中な俺が気に入らず、プロレスも気に入らなかったのではないか?

 

木山さんからしたら、「プロレスなんかより、俺の好きなものを応援しろや💢」だったのでは?

故に「プロレスなんて、八百長だろ?」となるのだ。

プロレスは下らないショー👯だ。

だから、プロレスなんか見るな。口にもするな。

…というわけだ。

 

しかし、そんな事を聞くと、俺は余計にムキになってプロレスの話をする(逆効果)

すると、木山さんもまたムキになる。

 

…これが口論(子供の喧嘩)の正体だ。


で、遂に俺は木山さんの“正体”を見てしまう。

本当は寂しく、誰にも相手にされない小さな人間、それが木山さん自身だったのだ。

(…俺もそうだが)

 

そんな真実に気付いた俺を木山さんは遠ざけ出す。


もう木山さんからしたら、俺を“信者”にできないと判断したのだ。する理由も無い。…いや、出来ない。

 

だから、俺と距離を取り出したのではないか。

話しかけて来なくなり、絡んでと来ない。 

 

そんな感じだったのでは?


そう考えると、木山さんの不思議な行動を理解する事ができる。

木山さんは自分の“信者”が欲しい“教祖”だったのだ!?


今更ながら、俺の周りにはこうした“教祖志望”な人間が多い。(多かった)


この後に仲良くなった同級生の“テツ”(仮名)も似たようなヤツで、仲良くなったが“連れション”に行く行かないでモメて仲違いした覚えがある(…書いたかな?)


だから、今更ながら改めて思うのだ。


「人は“信者”を欲しがる」


自分を尊敬し、自分に遠慮し、自分の事を忖度してくれる非常に便利な他人の存在を欲する。

寂しい自分を繕う、“アクセサリー”のような人間関係を欲する。

何故なら、自分は格好良く、人望もあり、誰からのしたわれてしまう存在だからだ。

そう思いたいのだ。

 

集団の中で、寂しく孤立するような人間ではない。

そう思いたいのだ。


たぶん俺もそうなのだろう。


本当は弱くて、誰からも尊敬されず、遠慮も受けず、考慮されない“小さな存在”だからこそ、虚勢を張り、見栄を張り、自分を大きく見せたがる。


たぶん、俺もそうだ。

 

そんな青春時代(高校生)を送っていた俺だった。


木山さん同様にそんな青春時代を送っていたのだろう。

だから、俺を“信者”にして、虚勢と見栄と、自分の理想の中でいたかったのだ。


ちなみに、俺の一つ上だった木山さんは自身の卒業式の日の夜、何故か俺の自宅に電話を掛けてきた。

久しぶりに会話するので驚いた。


「…なんすか?」

「別によー、何でも無いけど。…俺、今日で卒業だからさー」

「はぁ、そうっすね」

「…」


その頃(俺が高二の冬)、もう木山さんとツルむ事が無く、俺の頭から木山さんの事は完全に消えつつあったので、突然の電話にかなり驚いた。そして、電話の意味が全く分からなかった。

(…まさか「卒業しても時々付き合え」とか言うのでは?

それくらいにしか思えなかった。


これも今から思えば、なのだが、木山さんは寂しかったのではないか、自分事を忘れて欲しくなかったのではないか?

で、クラスに友達のいない(失礼)木山さんは、久しぶりに後輩である俺に連絡をしてきたのではないか?


当人の俺は、(何だよ?)というような対応だったが…。


実はその後、俺と木山さんは再会している。(たぶん)


俺が大学卒業、ブラック企業を辞めた後、地元求人誌の編集部にいた頃、たまたま入った曳馬のメシ屋で木山さんらしき男性を見た。

向こうも気付いてようだが、互いにはっきりと認識できず、にらみ合った記憶がある。


その時の木山さん(らしき)男性は、数人の仲間と楽しそうに食事をしていた。

もう今は、寂しくない様子だった…。(もう10年前の事