阪神タイガースが好調だ。
久しぶりに優勝が見えているようだ。
当時俺は学生で大阪にいた。
大阪は軽い“野村フィーバー”だった。
ヤクルトの黄金期を作った名将野村が、あの“ダメ虎”を“変える!”と期待が膨らんでいた。
だが、結果は3年連続最下位という“黒歴史”になってしまった。
何故、野村阪神は失敗したのか?
その理由は、『野村克也を“感化さなかった”からだ』と俺は思う。
野村克也は物凄く“印象付け”の上手い監督だった。
ノムさんの代名詞に“ID(important・date=データ重視)野球がある。
多くの人が指摘するように、それは“単なるヒット&ラン”である。
得点差、投球回、カウント、走者位置から、ピッチャーはどういう球を投げるのか。打った打者、走者がどう動けば良いのか、それを“データ化”、それを研究、利用したのが、“ID野球”である。
ただ、これは全球団がとっくの昔からしている。ノムさんがIDを標榜する前に、プロ野球は既に“データ重視”になっていて、投手の配球は研究されまくっていた。
それをノムさんは“あえて”、IDと称し、あたかも相手打者を“研究しつくしている”かのように思わせ、惑わせる。
それが野村ID野球の“正体”だ。
ノムさんは、対戦相手に印象付けをしてペースを崩させたり、こちらには、普段とは違う可能性を引き出すのが得意だ。
その為のデータなのだ。
だから、ノムさんは『野村の考え』として、長時間のミーティングをした。
選手らに、ノムさんの考える“野球”と“戦法”を伝え、選手を誘導させる為だ。自問自答させる。考えさせる為に。
相手を惑わせ、味方を鼓舞し、“感化”させる。
それがノムさんのやり方だ。
それがヤクルトでは、見事にハマった。
だが、阪神では通用しなかった。
何故か?
それは阪神の選手らが、誘導されなかったからだ。感化しなかった。
阪神の選手ら、“阪神タイガースの一員”というだけで関西ではある程度のアドバンテージがある。
それが、ヤクルトと違った。
そこに『野村の考え』と言われても、反発しかなかったのだろう。
「何でこんなクソ長い“説教”を聞かないといけないんや💢」
…となったのだろう。
ヤクルト時代同様、ミーティングとボヤキで選手を“洗脳”しようと思った野村監督だったが、完全にアテが外れたようだ。
結果、3年連続の最下位。そして、クビ。
ヤクルト時代は“心構え”から選手に自問自答を促したが、阪神時代は“耐え難い説教”と“愚痴”になったのではないか。
ノムさんの説教には『データ』に裏付いたものだった。
捕手の矢野(現監督)はある失策を「何であんなプレーしたんや。それが成功する確率は95%や!」と起こられた、という。
ノムさんは、伝説(そして、おそらく最後)の4割打者、デッド・ウィリアムスの話からデータの重要性を感じ、ID野球に至ったらしい。
データという情報が『正しい』とするなら、ノムさんの“ボヤキ”は常に正しい。
そこには選手の向上のカギ🔑があり、そうする事でチームの内外に“変化”をアピールし、“強化”という印象を与える。
その強さをノムさんは分かっていたのだろう。
そこで選手を育て、強いチームを作りたかったのだ。
実際、ノムさんは最下位に沈んだ次の年、球団オーナーに「阪神が弱いのは、オーナー、あなたの責任ですよ」と責任追及と直言している。
そうしないと、阪神は変わらないと思い、また変わる印象を与えられなかったのだろう。
だが、阪神は変わらなかった。
ノムさんの影響が次の星野監督に繋がり、リーグ独走優勝に繋がったなのだろう。
ノムさんの“やり方”に従わなかった。
“野村の考え”に感化されなかった。
ノムさんは3年間、ずっと“愚痴っぽいおじいちゃん”で過ごしてしまった。
他人を上手く感化できない“例”だろう。