俺は派遣をしていて、色んな人間に出会って、よく揉めた。
相手のわがまま、横柄さが許せなく、俺も負けずに口応えしたりした。
…で、毎度毎度、現場で口論や争いを起こしきた。
こんな性格だ。
派遣という“最下層”な人間なのに、「態度がデカい」とか「選らそうだ」と言われ、揉める。
そして、俺から相手を見ると、(…何でそんな態度となんだ、お前💢)となる。
だが、俺には俺の理屈がある。
俺はいつも思う。
「何で、人は“人の上に立ちたがる”のか?」
俺を含め、そんな態度を取らなければ、俺は態度を硬化しない。
何故、そんな態度(他人を制す)を他人はするのか?
そう疑問を持つと、いつも思い出す事がある。
これが今の俺の派遣に対するスタンスに繋がっている気がする。
それは学生時代のサークルの新入生勧誘(新歓)の出来事だ。
俺が二年生になる前。一年生の後期の終わり、我がサークルで脱退者が多く出た。
それはそれで仕方ないのだが、当然、翌年の春の新勧に我々は力を入れる事になった。
幸いにして、多くの新入生が入り、サークルは持ちこたえた。
だが、俺達の中であまり勧誘活動に積極的ではなかった奴がいた。
実のところ、俺も他人に対してそこまで積極的ではなく、初対面の人(新一年生)に対しては少し尻込みする部分があるから、ソイツの気持ちは理解できた。
なので、俺は直接声をかけての勧誘が無理なら、「チラシ(B5程の紙)を手渡しするだけでも良いのでは?」と提案した。
すると、ソイツは言った。
「別に新勧とかせーへんでええやろ?」
意味が分からなかった。
サークルの人数は減っている。ここで新入生を獲得できなければ、どこで人を増やすのか?
俺は内心、(…コイツ、どこまで“人見知り”なんだよ)と思った。
どうにも他人に関わるのが嫌らしい、と思えた。
気持ちは分かる。
分かるが、それをならば自分で出来る範囲で勧誘活動をすれば良い。それを『勧誘自体したくない』とは…。
呆れていた、その時は…。
幸い、勧誘活動はサークル内にいた“人当たり”の良い同級生が貪欲に声かけした事で多くの新入生を獲得できた。
…で、後から思うと、その“人見知り”が新勧を嫌がったのは『人見知りだから』ではなかったのが分かった。
例えば…。
「このサークルに入りたいです!」と言ってきた後輩と、
「お願い🙏 俺達のサークルに入ってみない?」と勧誘した後輩では、後々の対応が変わって来ないか?
誰もが後輩には“大きい態度”を取りたい。
「お前は後輩だろ?」「後輩なら、あれしろ」とか「後輩だから、これはするな」と主導権を取りたい。
その時に、こちらが勧誘した、という事実は“足枷”になる。
『新勧とかせーへんでええやろ?』という言葉には、(俺は後輩ごときにヘコヘコしたくないんだ💢)というプライドの高さと、その後の展開を見据えた気持ちが見える。
もしも、「お願いです。このサークル、入らせてください!」と頭を下げてきた後輩だけを入れたなら、自分は後輩より“立場”が上で居られる。
そこまで見透かして、新勧を拒否していたのだ。
俺はそれが分かると、ソイツの“先見性”に感心した。
俺らはただただサークルの人員が増える事だけを見ていたが、ソイツは先々の事を念頭に居れていたのだ。凄い、と思った。
と、同時に(…でも、それって意味あるかな?)とも思えた。
まず、そんな勧誘では大量の新入生は望めない。こちらから積極的に勧誘しないと人は集まらないからだ。(実際、そうして人の入らないサークルもあったな…)
そして、もしそんな風に入ってきた後輩らは、ずっとこちら(先輩)を“尊敬視”し続けるのか。
次第に気付くのではないか。
(…この先輩、最初は偉そうだったけど、よく見たら大したことねぇな)と。
“メッキ”は、すぐに剥がれてしまうだろう。俺なんてすぐだ。
それなら、多くの後輩を「入らない?」と入れた方がよくないか。
自ら進んで来る入部希望者を待つのは、後々を考えると、意味が無い。“先細り”が見えている。
だが、それでも人は他人に対して『自身を大きく見せた』し、『他人か尊敬されたい』という気持ちがある。
学校の“先輩後輩”は学内においては絶対だ。
先輩は後輩には“大きな態度”を見せたい。
サークルという“小さなグループ”の中で威張れる自分でいたいのだ。
これも今から思う事だが、それが“人間”ではないか。
尊敬されたいし、遠慮されたい。役職が欲しいし、権力が欲しい。忖度されたいし、自分に素直に従ってくれる人間とだけ交わっていきたい。
他人に頭を下げたくないし、他人は自分に頭を下げて欲しい。
だから、自分だけが威張れる“小さなグループ”が欲しい。
社会に出て、派遣社員の立場の弱い人間には大きな態度をとりたくなるメカニズムはこれではないのか?
社会に出た俺はそんなバカを何人も見てきたし、俺自身もそうだったらかもしれない。
…そんな人間と俺を見ると、“新入生勧誘”の事をいつも思い出す。
だから、そろそろ派遣の頃の話を書いていこうかな、と思っている。
俺は日雇いを含め、『派遣』という仕事で色んな人間を見てきた。良い奴も居れば、顔も見たくない奴らもいた。笑える奴も居たが、笑えない奴らもいた。
そんな奴らの話を書いていきたい。