鈴木篠千の日記

2度目の移籍。浜松近郊でフリーライターしてます。①日記(普段の生活やテレビの話題と社会考察) ②プロレス心理学(とプロレス&格闘技の話) ③非居酒屋放浪記 ④派遣録(派遣していた&いる時や過去の話)

6/16 ブラック主義

ブラック企業』という言葉が広まり、認知されてから久しい。今では『ブラックバイト』や『ブラック部活』なんて言葉さえある。
…という俺も、実は大学卒業後に『ブラック企業』(その頃はそんな言葉なかったが…)に一年弱ほど勤めていた。

何故、『ブラック企業』は生まれるのか?

元・ブラック企業経験者の俺からすると、一般的に言われる"ブラック企業"には主に三種類あると思う。

1、肉体的に過剰に労働を強いられる。
長大な労働時間や時間内には処理しきれない仕事量や内容。契約上は存在するも実質は休めない休日。今、問題になっている"宅配業者の過剰労働問題"などこれに当たるのでは?

俺の勤めていたブラック企業も、休みは規定では月に8日以上だったが、実質は月に2日も休めたら良い方だった。

2、精神的に圧迫される。
職場の人間関係。あり得ない利益ノルマの強要。"パワハラ"…。
近年、よく聞く話。

俺はこの"人間関係"ってヤツが苦手だ。
ブラック企業でも、その後の会社でも"上司"って人間も大嫌いだ。よくモメたな…。

3、1と2を合わせたような状態。

実際はこの『3』って状態がほとんどのブラック企業にあり得る状況なのだろう。
1の『肉体的に過剰…』というやつだが、これは何で起こるのか?
それはよくも悪くも日本社会に広がる『お客様は神様』『お客様第一主義』にあると思う。
労働時間が長くなるのも、処理しきれない仕事をするハメになるのも、『全てはお客様の為』という大前提がまかり通っているからだ。
俺も"ブラック企業"にいた頃、研修からなんだで散々言われてきた。
この"主義"が巧妙なのは、企業からして(特に販売、小売業…)、この"前提"を否定することが絶対に出来ない事だ。
利益を得たくない企業、個人などはいない。
利益を生む為には一人一人のお客様を大切にする。
企業としては当然であり、これに逆らえる会社員などはいない。
お客様の為に、朝から晩まで働き、休日も返上して働く。
何故か?
それが利益(お金)の為だからだ。
利益を上げるために会社、組織は存在する。
その為に多くの人間か時間の消費や体力、精神を疲弊させても"仕方ない"のだ。

この"絶対"的な主義がブラック企業と呼ばれる会社の根底にあると思う。
いくら、コンプライアンスや社員の福利厚生を高らかに唄っても常に『大事なのは"お客様"』であり、会社内の"身内"は二の次に過ぎない。
『いやいや、ウチは社員を大事にする会社だ』という社長がいるかもしれないが、組織が利益を生むことを前提に組み立てられている事を考えたら、その言は極めて怪しい。

…そう言う俺も、ブラック企業に在籍していた名残がまだあるらしく、たまに『長時間労働』を愚痴るヤツに嫌悪感を覚える。
「昨日、仕事が忙しくて寝てないよ」
「最近、仕事が大変で遊ぶ暇無いよ」
などと言う言葉を聞くと馬鹿馬鹿しく思う。"忙しい"のは働いているからで、儲かっているからだろう。
逆に『暇で暇で仕方ない』なら焦らないか? 忙しいのは働いているからであり、当たり前だ。
『嫌なら辞めてしまえ』と言いたくなる。
『仕事辞めたら、生きていけない』ならいちいち愚痴る必要はない。
それは全世界の人間に当てはまる事で"貴方"だけが大変ではない。
また、仕事があるから、大変だから、お金を貰えて、生きていけるんだ。声高に主張する話ではない。

この"お客様第一主義"が世間や企業に内在する以上、ブラック企業はなくならない。
いや、会社と言う組織がある以上、"ブラック"さは消えることはない。

また、それが分かっていても会社は何かしてくれない場合が多い。

俺のいた、そのブラック企業の話だ。
ある日、会社の社内HPの社員用のBBSにある書き込みがあった。
『この会社の労務環境はおかしい。それに対処しない幹部らはもっとおかしい。幹部らは一度現場で働き、我々一般社員の大変さを味わうべきだ』
と言う、社員の"八つ当たり"的なクレームだった。

それを社長が見て返信した。
なんと返したのか?

『幹部らが現場の状況を見るのは、会社としても良い事。こういう意見は嫌いじゃない』
この発言を聞いて俺は呆れてしまった。
こんなバカな八つ当たり、『甘ったれるな!』と一喝して終わりだろう。そして、『嫌なら辞めちまえ!』で充分だろ。
それが何が、『…こういう意見は嫌いじゃない』だ。
俺はこの社長の発言に己を良く見せたい"カッコつけ"の安い猿芝居とみて、呆れた。そこまで"器の大きい社長"を演じたいか?
腹の底では、社員にこんな事言われて多少気分が悪いはずだ。

また、休みも少なく、労働時間もめちゃくちゃだったが、それをどう改善、対処するかは、我々社員の仕事ではない。
休みが欲しいなら『休みをくれ』と言えば良い。
それを『幹部らも…』なんてもっともらしい"大義名分"を出すのが馬鹿馬鹿しい。
やはり、根底にあるのは『お客様第一主義』、そして『利益第一主義』だ。
こんな事があっても、その後に会社内の労務環境が改善される事はなかった。
100人近くいた俺の同期らも次々と退社していった。(俺の辞めた理由は別)

こんな"ブラック"な主義を持つ会社から逃れる方法は無いのか?

それは二つ。
一つは、辞めてしまうこと。
これは会社という組織が"利益追求"の為にある以上、仕方がない事だ。

もう一つは、この会社の中で偉くなり、自身がこの"主義"を変える立場になるしかない。

この主義があらゆる意味で"反抗"できないのは、やはり『金を得る為』という理由に対抗できる他の理由が今の社会には無いからだ。

ブラック企業では、よく無茶な"ノルマ"を社員に課して、達成出来ないと苛烈な叱責やペナルティを与える事が批判の"的"になるが、そこにもこの"ブラック"主義があると思う。

"金銭を稼ぐ"という行為を否定できる社会人など世の中にいるだろうか?
ブラック企業など、無くなれ!』と言ったとしても、それは突き詰めると『金稼ぐな!』と言っていると同じである。

ならば、辞めるか、自身がそれを否定する組織を作るしかないのだ。


☆"小さな王様"編に続く