鈴木篠千の日記

2度目の移籍。浜松近郊でフリーライターしてます。①日記(普段の生活やテレビの話題と社会考察) ②プロレス心理学(とプロレス&格闘技の話) ③非居酒屋放浪記 ④派遣録(派遣していた&いる時や過去の話)

無所属少年⑤ "ゴッチ"の秘密

今から思えば、である。
何で俺はあんなに"仲間"が欲しかったのか?

近所の小学生グループから離れ、どのグループにも入らない"無所属"になった俺は、よく一人で遊び、それでも、自分に"優しい"仲間を探し、フラフラしていた。

この時期、『一度しか遊ばなかった』友達が結構いた。
おそらく、一度近付いてみたら、あんまり俺と"波長"が合わなかったり、向こうから嫌われたりしていたんだろう。

だが、それでも"気楽"だった。
無理して、仲間に合わせるのが嫌になっていたんだと思う。

"仲間"とは、"友達"とは、かなり便利な言葉だ。

仲間なら一緒にいてもおかしくはないし、友達なら、自分のピンチを助けてくれるはずだ。

だが、逆はどうだろう?

いつも一緒にいる仲間は本当に"仲間"のか?
友達の誰かがピンチなら、自分は助けるのか?

俺は、"仲間"という意識の裏にある"連帯感"を『支配される感覚』に感じていた。
誰かの友達は、その誰かを"光らせる"為の"舞台装置"ではないか?
いや、そこまで考えてはいないが、皆が俺を"いいように利用している"のではないか?

だが、逆に自分はどうだ?
誰かを自分の為に"利用して"いないか?

ならば、仲間などはいらない。
ただ、楽しいときを過ごせたら、それで良い。

この時期、誰にも相手されない時は、学校の図書館などで過ごしたり、帰宅して買ってもらったばかりのファミコンを一人でやっていた。

不思議と寂しくなかった。
一人は一人で気楽だった。
だが、それでもやはり仲間が、自分に"都合の良い"仲間が欲しかった。

そんな奴、いないのに…。

俺が"サダヒト"の行動に辟易してきた頃、仲良くしていたのが、"ゴッチ"(アダ名)だった。

ゴッチの家は、俺やサダヒトの地域の隣の『団地丘』と呼ばれる地区にあった。

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新興の住宅地であり、ゴッチの家も大きく綺麗だった。
(我が家は汚い平屋)

ゴッチは穏やかな性格でいつもニコニコしていて、話しかけやすかった。
俺はすぐに彼の家で遊ぶようになった(⬅迷惑なガキだ)

そんなある日、俺はゴッチの秘密を知ることになる。

ゴッチの部屋で遊んでいた時、押し入れの開けたすぐ近くにバケツが置いてあった。
(何だ?)と見てみたら、当時、300円くらい(?)で買えたガンダムのプラモ(足がU字のはめ込み式の奴、五センチくらい)が入っていた。
ゴッチに、これ何?と尋ねたら、
「ちょっと、集めていてさ…」
という。

それは"ちょっと"という数ではなかった。
軽く100体以上はあった。
ちなみにゴッチからガンダムの話を聞いたことは無かった。
つまり、これはゴッチの秘密の趣味だった。
それを見て、思った。

「…カッコいい!」

ガンダムが、ではなく、ゴッチがである。

まさかゴッチにこんな隠れた趣味があるなんて。
そして、それをあえて言わないなんて。

なんて、カッコいいんだ。
渋い。

ガンダムはもちろん知っていた。
ガンプラ(ゴッチより大きい奴)もあったかな?
興味が全く無かったわけではない。

だが、ガンダムの格好良さより、誰にも知られない趣味のあるゴッチが一番格好良かった。

俺も何か、集めたい!
秘密の趣味を持ちたい!
誰かが家に来たら、さりげなく自慢したい!

当然とそう思ったが、俺の月の小遣いは300円。
これでは趣味もクソもない。

思えば、俺は趣味というものがなかった。
釣りとプロレスにハマり出すのは、この暫くは後である。
釣りはしていたが、小学生低学年の頃は、父に連れられ、天竜川で鮎釣りをしていたくらいだった。
プロレスの存在は知っていたが、『怖い兄ちゃんたちが暴れ回るスポーツ』というくらいの認識だった。

俺が偶然見たゴッチの秘密は、(良い風に言えば)俺に"自我"を喚起させたのかもしれない。

ちなみに、ファミコンの抱き合わすで偶然手にした『キン肉マン マッスルタッグマッチ』が俺の近辺で"ブーム"になったが、すぐにその勢いは無くなった。


それで結局俺が集め出したのは、

静岡新聞(朝刊)についてくる四コマ漫画だ。
あの部分を切り抜いて、毎日集めていた。

何故か?

"タダ"だからである。

新聞代を払うのは両親である。
俺は、ただ新聞箱に入れられた先日の朝刊を秘かに抜き出し、四コマの部分を切れば良かった。

その四コマは楽しかったか?

正直に言えば、『別に面白くも何ともなかった』
まあそこに楽しさを求めてはいないから、構わない。
ただ、"集めるモノ"があれば良いのだ。

それでも俺は一応、楽しもうとした。
集めた四コマ漫画を『ほのぼの』『道徳(社会風刺)』『その他』に分けたりした。
そして、夜な夜な、(こんな事もあるよね…)と無理矢理楽しんで(?)いた。

それは一年弱は続いた。

今から思えば、『何やっていたんだ、俺?』という話だ。
よくもあんなモノ(失礼…)を毎日切り抜いていたな?

それもこれも、他人から『スゲー!』と言われたいが為である。
(言われるかな?)

だが、やはり無理があった。
集め出して約一年後。
ある日、『俺は何を集めているんだ?』と切り抜きをバカらしく思え、まとめて捨ててしまった。

結局、誰にも自慢しなかったし、言わなかった。
両親は知っていたかも?(新聞交換の際に穴の空いた朝刊を見たはずだ)
もちろん、同級生などに言うわけが無い。(言っていたら引かれていただろうな…)

こうして俺の"秘密の趣味"計画は頓挫した。
ちなみに、ゴッチとはやはり高校まで一緒になるが、次第に疎遠になっていった。
ゴッチは誰にも愛想が良く、明るい性格な為に重宝がられて、クラスの"人気者"グループと仲良くし始めた。
学校で大して目立たぬ存在の俺などと付き合う事は無くなった。
別に恨みは無かった。
ゴッチの人の良さは皆が認める所だし、俺などが"人気者たち"とゴッチを介したとして、うまく遊べるわけがない。

ゴッチは選ばれるべくして、選ばれていたのである。

中学、高校のゴッチがガンプラを集めていたかは知らない。
また、高校卒業後の動向も知らない。
その頃には全く会話もしなくなり、高校内で会って、互いに軽く挨拶するだけの仲になっていた。

自分だけの趣味を見つけられなかった俺は、次第に市立の図書館(文化センター内)へ足が向くようになる。
本の中に没頭するようになる。
趣味は、"読書"になっていった。
(図書館で借りたらタダだしね)

…それはそれで良かったのかもしれないが、たまにゴッチのような秘密の趣味が欲しくなったりした。

中学生になり、次第に釣り、プロレスに比重が傾いてくるが、周囲に公言していたから"秘密"とは言えない。

誰かが自身に抱くイメージを壊す。

そんな感じが、ゴッチの秘密にはあった。
そして、格好良かった。

そんな彼に俺は成れなかった。
"憧れ"だったのかも?
誰かに自分の"凄さ"を知っていもらいたい。
"俺は実は凄い奴だ"と、思われたい。
そんな事ばかり考えては、俺は"無所属"を楽しんでいた。