鈴木篠千の日記

2度目の移籍。浜松近郊でフリーライターしてます。①日記(普段の生活やテレビの話題と社会考察) ②プロレス心理学(とプロレス&格闘技の話) ③非居酒屋放浪記 ④派遣録(派遣していた&いる時や過去の話)

新社会人へ ② "馬場"はいる。

俺がプロレスにハマり出したきっかけは、ジャイアント馬場全日本プロレスであった。
その頃の馬場は既に50代半ば過ぎ。腕も胸板も薄い、"おじいちゃん"であった。

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だが、このおじいちゃんに誰も勝てない。
20代(当時)の小橋、秋山が全く勝てないのだ。
20代の成人男性が50代のおじいちゃんに腕力、体力で落ちるだろうか?
有り得ない。

これをよく指摘され、「だから、プロレスなんて八百長だろ?」と言われた。

なぜ、馬場は負けないのか?
それは馬場が全日本プロレスの社長であら、"プロモーター"だからだ。

プロモーターとは、そのプロレス興行を仕切る"興行主"である。
その他にレスラーを呼んでくる"ブッカー"。
対戦の組み合わせを決める"マッチメイカー"がいる。(ブッカーとマッチメイカーは兼務される事が多い)
プロモーター。
ブッカー。
マッチメイカー。
この3者でプロレス興行は成り立っている。
プロモーターの目的は、興行の成功であり、観客を興奮させること。そして、次の興行にもお客に来てもらう事だ。なので、レスラーの勝敗はプロモーターの一存で決まる。
プロモーターが全体のストーリーを決め、興行を成功するように考える。最大権力者である。
レスラーはあくまでも彼の"駒"でしかない。

ちょうどテレビ番組で言えば、プロデューサーに相当する。

プロレスの勝敗
そんなプロモーター(馬場)が自身が負けるという"ブック"(台本)を書くだろうか?

だから、馬場は負けない。20代の活きの良いレスラーにも、スローで吸い込まれるような謎の十六文キックで勝ってしまう。

なぜ、プロモーターに逆らえないのか?
それはプロモーターに嫌われたレスラーは使って貰えない。
(日米で違いがあるが)
レスラーとしてリングに上がらないのならば、収入は無い。
だから、レスラーがプロモーターの意思に反する事はまず無い。
だから、馬場は負けない。
(たまに負けていたが…)

「クダらねぇ」

そう思うかもしれない。

しかし、考えて見て欲しい。貴方も"明らかに勝てる(と思える)"相手にわざと負けていないか?

また、自分が(コイツは俺の"子分"だ)と思える後輩が反抗的な物言いをしてきたら、頭に来ないか?
(オレ様に逆らうのか!)とキレないか?

何故、大した実力がない奴に従い、後輩の反抗に苛立つのか?

それは、我々も"レスラー"だからである。
(別に馬場自身が後輩にキレていたわけではないが…)

社会という"リング"では"上"の立場(上司、リーダー)が常に偉い。
彼らを"立てる"事がリング(社会)でのルールだ。
プロモーターに逆らうレスラーが生きていけないように、上司に逆らう社会人もまた生きていけない。

ま、分かっていると思う。

つまり、新社会人が入っていく"社会"とはそういう世界でなのだ。
絶対的な"プロモーター"が居て、その人間の意思にそぐわない奴は"消えて"いく。

そういう世界なのだ。

そう言えば、最近女子レスリングで似たような事があったなあ…。

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自分の意に添わない選手にパワハラ
栄氏は勿論プロモーターではないが、『レスリング界はオレの意志が尊重されて然るべき』という気持ちがあったに違いない(本人は否定するだれうが)

…と、ここまで書くと、ジャイアント馬場が凄く尊大で傲岸な人物に見えるが、それは違う。

馬場の場合、自身が全日本プロレスの社長であった。
(ここがアメリカとの違い)
配下のレスラーは社員であり、彼らを食わせて生活を保障していかなくてはならない。
プロレス興行の成功は、社長・馬場の使命であり、その為にプロモーター・馬場は興行のストーリーを作る。
そうしなければ、稼げないからだ。

ならば、50を過ぎた老体を晒して、何故、馬場はリングに上がっていたのか?

それには二つの理由があると思う。

一つはプロレスラー・馬場のプライド。

オレのように50代の馬場を見ていたファンには信じられないかも知れないが、馬場は間違いなく一流レスラーだった。
しかも、アメリカでも。(特に東海岸地区)
トップ日本人ヒールであった。
また、力道山亡き後の日本プロレスの牽引者であった。(すぐに猪木にその地位を奪われるが)
よくモノマネ芸人が「アポーッ」なんてやるが、あれはレスラー人生後半の姿。全盛期(昭和40年前半)はめちゃくちゃ動けて、強く、外国人レスラーをバンバン倒してい観客を興奮させていた。

そんな馬場にしたら、当然、『リングには俺がいないと…』というプライドがある。

だから痩せ細った体を晒してリングに上がっていた。

二つ目は、居場所だ。
その頃、馬場は一線から退き、休憩前の"お笑い"プロレスを担当していた。
ラッシャー木村にマイクでイジられたりしていた。
そして、そういうプロレスに自身の居場所を見出だしていたのだろう。
休憩後の"激しい"部分は、鶴田、天龍、四天王(三沢ら)に任せて、自分は"キャリアアウト"同然の居場所でプロレスを続ける。
誰もがそんな馬場を認めていた。
尊敬と親しみを抱いた。(たまにハンセンなんかと組んでトップレスラーとやっていたが)

そこに居場所を得ていたのだろう。
そんなプロレス(ファミリー軍団vs悪役商会)を見れば、プロレスが真剣勝負ではない事は一目瞭然である。
だが、これを受け入れたら、それはそれで有りになる。

だから、馬場はリングに上がり続けていた。

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それが「おかしい!」というのなら、明日の朝一番に会社の上司をブン殴って見れば良い。
いきなりそんな事できない、と言うなら、頭に来た時で良い。

出来ないだろう。
俺も出来ない。

それが"社会"だ。

実際に馬場の下を離れたレスラーはいる。
独立などだ。
(天龍とか…)

だが、うまくは行かずにその団体は潰れたりしている。

プロモーターとして信頼されていた馬場の力は偉大だ。
彼には逆らえない。

馬場の下にいるレスラー、つまり馬場に"勝てない"レスラーは安全だ。
生活は馬場が保障してくれる。従っていたら食べていける。

だから、プロモーター・馬場はレスラーを確保して、興行が出来る。

会社の面接などは、すべからくこれではないか?
皆、頭を下げて社長(プロモーター)に「私を使ってみて下さい」と懇願する。
プロモーターは「コイツは金になる」と思ったら仲間に入れる。
ひょっとしたら、金になると思えても『反抗しそう』と思えたら入れない。

自分に従わない人間には仕事(プロレス)はやらせない。
自分に従う人間だけを選んで、自分の仕事(プロレス)をやらせる。
勿論、金は出すよ。
そういう契約だからな。

それが我々の社会なのだ。

この"馬場"のような人間だらけであり、自分自身も"馬場"なのかもしれない。

この社会から逸脱するというのは、プロモーターからの支配を受けない代わりに、生活の保障も無いのだ。

覚悟をすべきだ。
会社、組織は全てそれを管理する(したい)プロモーターがいる。
いるから、会社、組織は回るのである。

それから出たいなら、自分がプロモーターになるしかない。
"馬場"はどこにでもいるのだ。