そんな感じのやすしとは、さすがに付き合い切れず、俺は1ヶ月もすると彼とは遊ばなくなった。
やすしは"インドア派"であり、元来"アウトドア派(今は違うが…)"な俺とは合わなかったのかもしれない。
そんなやすしとは、実はこの後、高校まで一緒になる。
…と、言っても特に親しくしたわけではなく、家が近所だからたまに行き合うと挨拶をする程度の関係が続いた。
やすしには悪いが、俺は無口で大人しい彼をバカにしていた部分があった。(自分も大して変わらないのに)
そんなやすしから、一度、相談されて助けた事があった。
あれは、小学六年生辺りだったかな?
その時はもう疎遠になっていたが、たまたま帰り道が一緒になり、帰った事があった。
その時、やすしが言ってきた。
「"カガリ"(アダ名)がいじめてくるんだ…」
"カガリ"からしつこくいじめられているらしい。
やすしが大人しいのを良いことに、休み時間に罵声を浴びせたり、何かと文句を付けて来るらしい。
やすしも、性格上、『やめろ!』と強くは言えず、困っているらしい。
面倒事に巻き込まれるのは嫌だったが、俺はカガリのバカに一言言ってやることにした。
理由は、俺もどちらかと言えばやすしのように他者の干渉に嫌悪を感じる性格であったのと、
そのカガリがそこまで"強い奴"ではなかったからだ。
カガリは、どちらかと言えば、クラスの"実力者"に媚びて、すり寄るタイプの人間であり、俺はカガリが逆にいじめられているところを見たことがあった。
やすしをいじめているのが、クラスの"中心的な存在"の人間なら、俺はやすしを見捨てていた可能性がある。
もしくは「先生に言えよ」だ。
しかし、カガリ"クラス"ならば、話は違う。
典型的な『弱者による弱者イジメ』だ。
カガリを一喝するくらいの度胸はある。
だから、俺からすればやすしの"相談"は、『カガリなんかにいじめられるなよ…』という感じだった。
確か、二三日後、カガリを捕まえ、
「おまえ、やすしばかりいじめてんじゃないよ」と言ってやった。
カガリは「…何の事?」と惚けていたが。
それでやすしへのイジメが終わったかどうかは、わからない。
ただ、昔僅かに遊んだだけの俺に相談してきた、という事は、やすしは相当悩んでいたに違いない。
他者との関わりを、どうするか?
それは、俺にもわからない悩みであり、やすしに多少は同情的だった。
(イジメていたカガリにも…)
そこから、やすしは変わった。
明らかに明るくなり、よくしゃべるようになった。
…いや、しゃべり過ぎと思えるようになった。
中学の帰りにたまたま一緒になった際は、やすしが好きな漫画の話を延々聞かされたりした。
クラスが同じになることはなく、一緒の高校に入学したが、やすしは頭が良く"進学科"に入った。(俺は普通科)
それでも、たまに会うと賑やかに話しかけてきた。
小学生の頃を知っている俺には、かなり奇妙に思えた。
おそらくだが、やすし自身が『俺はこのままではダメだ』と思ったのではないか?
無口で大人しい自分では、社会では誰かに"やられてしまう"。
だから、無理に"賑やかにな自分"を演出していたのではないか?
俺もそんな感じのところがあるから、分かる気がするのだ。
カガリのような、何でもないヤツの標的になってしまうやすし。
それを避けるには、そういう"自分"から離れた"自分"を演じるしかない。
本当はそんなヤツではないのに…。
そんなやすしとは、現在も全く交流をもっていない。
高校卒業以来、いや、もっと前から、その小学生の僅かな時期から交流はなくなっていた。
家は近所だが、会うこともない。(おそらく
)
風の噂では、浜松の街中で飲み屋に勤めていると聞いた(真偽は不明)
ちょっと想像できない。
実は彼のいる店で飲んだ事があるやもしれない。
そんなやすしは俺の書く小説に頻繁に登場する。
大して仲良くはなかったが、何か俺と共通するものを感じていたからかもしれない。