そんなわけで、地元求人誌の編集部にバイト入社してから、一年強がたった頃、俺はメインにしていたピサ宅配🍕、宅配寿司🍣の日雇いから離れ出していた。
それでも、求人誌のバイトの給料ではまだ大丈夫だし、むしろそちら(求人誌)の方がメインになり、本格的にいそがしく、また社員さんからいろいろと遊び🍶🍺🎶などに誘われ、俺の日雇いにかける需要を低くなっていた。
この頃、宅配の日雇いで顔を合わせるようになったのが、“丸さん”(あだ名)だ。
彼は以前に書いた“小峠さん”(仮名)同様、宅配などの配達系の日雇い仕事を中心にしていた同世代の男性だった。
丸い顔をした人の良い感じの方で、宅配作業にはかなり慣れていた(ように見えた)
丸顔でおっとりとした印象だが、仕事は早かった。
顔が丸いので俺は「丸さん」と密かに読んでいた。(本名は別)
俺の書いている小説に出てくる“白井”のモデルの一人は彼だ。話の中の白井のようににこやかではなく、“おかしな裏顔”はなかった(と思う)が、話しかけやすく、何度か顔を合わせる内に親しくなった。
特に親しくなったきっかけは、宅配寿司屋の派遣で、浜松の中心街の店(⑮とは別の店)で一緒になった時、丸さんが厄介なクレーム客に目を付けられ、宅配の度に怒られていた。
その日もそのクレーマーから注文がきた。
丸さんが伝票を見ながら苦々しい顔をしたので、俺が「…丸さんどうした?」と聞いたら「このお客さん、毎回俺に説教してくるんだよね💦」と行きたくなさそうに答えた。
それで、俺が変わって行くことにした。
宅配系の仕事で、宅配先から文句を言われたり、嫌味を吐かれるのはよくある事だった。たまに長時間怒鳴られたり、「店長呼べ💢」などと言い出すクレーマーもいたが、基本、我慢で切り抜けられる。
で、俺がそのクレーマー先に寿司桶を運んだ。目付きの鋭いオヤジで、確かにうるさそうだが、初対面の俺には特に文句を吐くことはなかった。
丸さんには感謝され、これを契機によく話すようになった。
この頃は、以前書いた“小峠”さん(仮名)が日雇いに来なくなり、この丸さんとしょっちゅう一緒になった。
俺がこの丸さんをよく覚えているのは、その柔なか見た目から想像できないような車に乗っている事だった。
車に詳しくない俺でも知っている高級国産車(速いやつ)に乗っていた。
丸さんは市内の有名メーカーに正社員として働いているらしかった。
にも関わらず、丸さんは休みにこうして日雇いで働いていて、しかも、“2現場”連続(昼間はピサ🍕、夕方から寿司🍣)などで働いていた。
丸さんは、金がなかったのか?
そこまで突っ込んで訊けなかったが、お金に困っているような雰囲気があった。
車の維持費?
女でもいたのか?
遊ぶ金?💴
だが、その丸さん自体は人当たりが良く、仕事の勘も良く(たぶん、俺より上)、宅配現場で重宝されていた。
基本文句は言わないし、配送にも慣れていて、準備も早い。市内の細かな道は頭に入っているらしく、物腰も柔らかで接客も出来ていた(だろう
)
派遣では丸さんのような、動きが早く、勘が良く、何より人当たりが良い者が喜ばれる。
“使い勝手”が良いのだ。
丸さんは基本、現場の人間(社員や既存バイト)に絶対に逆らわない。
俺などは、派遣先の嫌な奴には露骨に嫌悪感を出していたし、文句をたれたり、逆らったりした。そして、基本嫌な現場には2度と行かない。派遣会社側(グッド◯ィルなど)の担当にもそんな事を言っていたりした。
俺はそこまで仕事内容や待遇に文句を言うタイプではなかったが、それでも言いたい事は口に出してしまう。
丸さんはそんな面が無く、日雇いで喜ばれていた。
“配送系”しかしないのは、おそらく小峠さんと同じような理由(自分のペースで働ける)だろうが、何となく日雇い(派遣)という働き方を理解しているように思えた。
前回(⑭、⑮)のような事から、俺は内心(…そろそろ宅配系の現場は)と思っていた時期だったが、この丸さんの“態度”は後の俺の派遣での“姿勢”になった。
…まさか、この後、俺の“メイン”が派遣となるとは思っていなかったが。
この頃、メインにしていた(というか本業)求人誌の編集は忙しかったのもある。
「正社員に…」などの話も出てきたりしていた。
また、以前書いたが、フリーランスのライター仕事も(会社には内緒で)ちょこちょことしていて、俺の労働環境は少し変わっていく時期だった。
だが、収入は伸びない。
月収は13万を越えたくらいだったかな?
なので、(…もう日雇いの宅配は…)と思いながらも小銭に入る日雇い派遣自体を嫌にはなってはいなかった。
なので、この頃(2007年辺り)は他の日雇いなども積極的に派遣されていた。
次回からはその話…。