そして、病院移転2日目。
大きな病院なので、1日では終わらなかったのだ。
俺はこの移転作業の現場を二週間ほど加わる事になる。長い現場だった。
例のバカ、…もう仮名で“白井”としておこう。
俺の小説に出てくる“丸顔の悪魔”白井は、コイツをモデルの一人にしている。
白井は俺との“コンビ”を解消し、社員にエレベーター前の大渋滞を訴え、前日の午後から他の部署に変わっていた。
そこは移転作業の中でも、運び入れ先が違い、何なら重要な備品らしく、三基のエレベーターのうち、一つを優先的に使用していた。
ここなら“渋滞”はなかった。
なぜなら、俺たち運送業者の“専用”にして、もらっていたからだ。
俺は、一人で怒り回り、俺を巻き込んできた彼(白井)がいなくなり、内心では清々としていた。
そして新しく組んだ顔見知りのゴリさん(仮名)と順調に移転作業を続けていた。
しかし、昼休憩前…。
「リーダー!」と俺の前に別部署で働いている白井が現れた。
俺「あれ? どうしたの?」
白「リーダー、すいません。PHS、どこかに落としちゃいました?」
俺「はあ?」
何の話だか、全く分からない。
白井が言うには、彼の任された移転部署では、重要な備品を扱う為か、日雇い一人一人にPHSが渡され、それで社員や病院関係者から連絡が入ることになっていた。
それをこの白井本のバカは落としたらしい。
もちろん俺とは無関係だ。
俺は「探せよ!」と答えた。
だが彼は「どこに落としたのか、分かんない」と嘆いた。
「なら、社員さんに言えよ?」と俺が言うと、「…いや、怒られるんで」と嫌な顔をした。
だが、俺に頼んでも無くしたPHSは出てくるはずなない。
「社員に謝るしかないだろ?」と言っても「それは出来ないんで…」と断ってきた。
社員に言えないし、謝れないという。
「…じゃ、何しにきた?」と俺が怒ると「リーダー、一緒に探してくれませんか?」と平気に言ってきた。
何でだよ?💢
そして、俺はリーダーではない。
コイツは部署変更になった経緯もあり、一人で社員に謝れないのだ。
腰抜け…。
それで昨日まで組んでいた俺のところに泣き付いてきたのだ。
バカなの?
だが、仕方なく俺とゴリさんは、白井と一緒にPHSを探したが、見つからず、三人で社員に怒られた…。(何でだよ💢…というか、ゴリさん、ゴメン🙏)
この白井のように社員や現場の関係者に対し、異常に怯える日雇いは多かった。
理由は、簡単だ。
怒られたら、“次はない”からだ。
前に書いたスガちゃんのように“早退”させられたり、翌日から仕事が“無くなる”のである。
なるべく、社員は刺激したくない。
気持ちは分かる。
結局、午後になりPHSは見つかり、白井はその後も日雇い現場に来ていた。“クビ”にはならなかったのだ。
俺に「リーダー、ありがとー」などと言っていたが、違う現場では無視して来たりした。調子の良い奴だ💢
またその現場では、白井はやけにその現場の社員のウケがよく、馴染んでいた。社員らと一緒にメシをくったりしていた。本当に調子の良い奴だ。
うまく立ち回っていた。
日雇いの立場は弱い。
白井のように生きる者も多い。
いちいち俺に“頼ってくる”のは参ったが、気持ちは分かってしまう。
俺はこうしたバカが好きではないが、そうしないと生きていけない奴がいることは認めている。