ある病院の移転作業に入った時の事だ。
旧病棟から、新病棟に荷物を移す作業があり、日雇いは二人一組になり、カゴ台車を使い、社員(運送業者)の指示通りに運んでいた。
俺は初対面の日雇いと組んだ。
カゴ台車に荷物(段ボールなど)を積め、新病棟の指定された部屋に運ぶ。
間違ってはいけないし、慎重にやらなければならなかった。
新病棟には、エレベーターがあり、俺たち“引っ越し業者”に病院の医療関係者が使い、エレベーターホール前で“大渋滞”になった。
もちろん事前に社員から「慌てるな。病院関係者優先ね」と言われていた。
なので、俺たちはカゴ台車をエレベーターの前に置いて、待機する事が多かった。
仕方ないだろう。
だが、これに対し、俺と組んだ日雇いが苛立ちを爆発💥させていた。
「…いつも、ここで待ちだっ💢」
「また待ち💢」
「みんな、ここ使いすぎだよ💢」
病棟には三基のエレベーターがあったが、俺達が使えるのは、2つ。しかもそのうちの1つは運ぶ荷物が指定されていて、実質、一基しか使わせてもらえなかった。
それは事前に説明があり、社員も分かっている。
俺はそいつに「ま、我慢、我慢」とか「待とうぜ」と声をかけてなだめていた。
しかし、その日雇いは「遅くなるでしょ!💢」とか「俺、待つの嫌いなんすよ💢」と一人でキレていた。
確かに、移転作業はここで遅くなる。
だが、それは社員もみんなも折り込み済みだ。
慌てたり、怒り回っても、エレベーターは待つしかない。
派遣現場には、こうして怒る人間がよくいた。
社員らはいつもプリプリ💢っていたが、日雇い側にもこんな風に怒るバカがいた。
些細な事で怒り、それを周囲に愚痴ったりしていた。
ま、俺も小さな事でイライラしてしまう人間だが、どうしようも無いことには怒る気にはなれなかった。
この時も『エレベーター前で“詰まる”』というのは分かっていたし、社員らも認識している。
それでも「早くしろ!」などと言われたらカチン💢と来ただろうが、そこまでではない。
しかし、その日雇いは一人で「遅くなる💢」と怒っていた。
何故なのだろう。
どうして、派遣現場にはこんなに怒り回る人間が多いのか?
周囲に怒りを振り撒くのか?
俺もこの時期(2008年半ば)は、新しい仕事も見つからず、イライラはしていた。
正直に言えば、日雇いなどしたくなかった。
だが、それでも怒らなかったり、愚痴ったりしなかったのは、あの“クソ部長”を見ていたからだ。
自分ではどうしようもないことがあると、他人(立場の弱い者=俺など)に関係のないことで愚痴り、怒りを発散する“小さい人間”…。
ああなりたくはなかった。
“弱い者イジメ”は誰にでも出来る。
無遠慮に怒るのも、誰にでも出来る。
だから、俺はしたくなかった。
エレベーターが来なければ、待つしかない。
ただ、それだけだ。
この話には、さらに驚愕の続きがある…。