鈴木篠千の日記

2度目の移籍。浜松近郊でフリーライターしてます。①日記(普段の生活やテレビの話題と社会考察) ②プロレス心理学(とプロレス&格闘技の話) ③非居酒屋放浪記 ④派遣録(派遣していた&いる時や過去の話)

派遣録 32 西田の願い

この時の派遣現場で知り合った人間に、“西田”(仮名)という男がいた。

元はトラック運転手で、この不況(リーマンショック)で仕事が無くなり、日雇い派遣するようになったらしい。

 

コイツがおかしな奴だった。

 

ピッキングの現場で仲良くなり、何度か話すうちに親しくなった。

 

すると、だ。

ある日、俺の登録していた派遣会社から電話があり、「…それでは鈴木さん、明日のお仕事現場ですが― 」と、俺が“予約”してないのに、明日の仕事をいきなり紹介してきた。

驚いて「あの俺、明日は法事で仕事いけないんすけど…」と断ると、派遣会社の担当者は驚き、「あれ!?  “西田”さんから『鈴木さんが明日一緒に仕事入りたいって言ってました』と聞きましたよ? 鈴木さん、明日、ダメ何ですか?」と逆に怒らた感じになった。

 

頭にきた俺が、すぐに彼に連絡してその事を尋ねたら、

「あれ? 鈴木さん、『予約、俺に任すわ』っていいませんでした?」

そんな事は言ってない。その事を話すと、西田は(…別にいいでしょ?)と言わんばかりに、

 

「これからは、僕の入る(事前予約する)仕事には、一緒に入るって事でいいでしょ?」

 

…と言ってきた。

西田くんの頭がおかしくなったか、と思った。

 

思わず「…あのさ。俺にも予定とかがあるから、明日みたく、必ず“西田”くんと同じ現場に入れるわけじゃないよ」と当たり前の話をすると、「…そうかあ」と不満そうな声を出した。

 

後日、派遣現場で再会し、俺は同じ事を改めて言うと、西田くんは困った顔をして、「…俺、知らない人らと働きたくないんですよねー」と堂々と俺に言い出した。

つまり、『知り合いの誰かと一緒でなければ、働きたくない』と言うのだ。

俺はあきれ果てた。

(…コイツ、歳、いくつだよ?)と思った。

たぶん、二十代半ば?

 

西田くんの、その気持ちは何となく理解出来たが、他人の予定を勝手に決めてもらったら困る。

 

この西田という男は、とにかく一人では何も出来ない奴で、何かと俺(や周囲)に頼ってきた。

「鈴木さん、昼飯、一緒に食べます?」

「鈴木さん、明日の現場、どうします?」

「鈴木さん、さっき話していた人、誰ですか?」

「鈴木さん、あの人、何か言ってました?」

「鈴木さん、あの人に聞いてきて下さいよ…」

 

とにかく何でも俺など、周りに頼ってきた。

 

それは、求人誌の編集部にいた“元同級生”の“彼氏”(中やん)と同じだった。

とにかく、何にかあると一人では動かない。動けない。すぐに他人に“お願い”してきた。

 

どうも、俺はこうした人間に“好まれる”性質らしい。

 

俺は何度か、「それぐらい、自分でやれば?」と突っぱねた。

すると、西田は露骨に落ち込んだ。

一人で行動することを異常に怖れた。

 

俺はこうして『他人に依存する』人間を見ると、複雑な気持ちになる。

 

彼ら(西田、中やん…)からすると他人に何でも頼ってくるのは、「仕方ないから」となる。

頭にくるのだが、彼らからしたら『他人に頼む(聞く)しかないから…』となる。自力での解決をあきらめている。

なんてダメな人間なのだろうか。

 

そして、そう言う俺も、他人に頼っていた事が確かにあった。

あの“二課にいた”時は、周りの連中やクソ部長に“頼っていた”と言える。

正社員昇格の時なんて、拗ねたりしたな。

 

西田(と中やん)の事は悪く言えない。

俺も、そうした人間だったから…。

だから複雑に見える。

 

力の無い者は常に誰かを頼りたくなる。

当たり前なのかも。

 

だが、俺は西田や中やんほど他人に依存はしてないと思いたかった。

ある程度、一人でできるし、一人で派遣現場くらいいける。

知り合いがいなくても平気だ。

 

そして彼らは、何故、俺を頼るのか?

西田くんは、勝手に仕事を入れる?

俺を舐めてないか?

俺はお前の言いなりに生るはずがないだろ?

 

しかも、それを『別にいいでしょ?』なんて顔で主張できる?

 

こんな経験から、俺は頼ってくる奴が大嫌いになり、俺も他人に頼れなくなっていった。